大竹まこと、きたろう、斉木しげるの3人による、唯一無比のコント・ユニット“シティボーイズ”。彼らは毎年、ゴールデンウィーク期間に年1回ペースでプレミア・ライヴを行ない、高い評価を得ている。そしてその公演は、毎回音楽面でも新鮮なコラボレーションに挑戦しており、これまでにも小西康晴、石野卓球、西寺郷太(ノーナリーブス)、PE'Zなどといった、トンガッた感性を持ったアーティストたちが、その音楽を手掛けてきた。そして2005年のライヴ『メンタル三兄弟の恋』の音楽を手掛けるのが、TAKAHIRO KANEKO + BIG HORNS BEEだ。今年は、今までの流れと変えてみたいというプロデューサーの意向や、演出の細川徹の、ファンキーな感じがやってみたいという意向から、金子隆博に白刃の矢が立ったということだ。シティボーイズと金子隆博とのコラボレーションは、98年の『真空報告官ピー(P)』に続いて、2度目となる。
そこで金子隆博は、思い切りファンキーなものをBHBとしてレコーディングし、また今までの流れを汲んだような曲は、金子自身が制作するというアプローチをシティボーイズ・サイドに提案し、彼らもそれを快諾して、このサウンドトラックが出来上がったという。“今回は演出の細川さんとの共同プロデュースなのですが、細川さんからは、まるで最近の映画のサントラを聴いているような、1曲1曲が全然違うような感じ、バラバラ感、サウンドトラック感がほしいという要望がありました。とはいっても作るのは自分ひとりなので、自分の個性の中で右に寄ったり、左に寄ったりとヴァリエイションを意識して制作しています。ただ、全体に流れるファンキーな、またジャジーな雰囲気には統一感を持たせています。とにかく意識したのはサウンドトラック感。ヨーロッパの映画のような雰囲気です”という金子の言葉通り、様々なタイプの楽曲がありながらも、とてもセンスが良く、統一感のあるサウンドトラック・アルバムになっている。
“アイザック・ヘイズやカーティス・メイフィールドのようなイメージにしたい”という細川のリクエストから生まれたメイン・テーマ「the theme of“メンタル三兄弟の恋”」の2ヴァージョンをはじめとして、「Lecon1」「Don't give up the Funk」(このタイトル、ファンク好きなら思わずニヤリとするはず)の計4曲が、BHBによるレコーディング。いかにもBHBらしい、パワフルでキレのいいホーン・セクションと、ファンキーなビートを聴かせてくれていて、いずれもBHBの新曲としても聴き応えのあるナンバーになっている。この分厚いホーン・サウンドと、心地よいリズム・セクションのグルーヴは、まさにBHBならではだ。そこに、ヨーロピアンな雰囲気満開のコーラスがおしゃれな「Waltz for MentalBrothers」、テクノ・ラテンともいうべき斬新なサウンドの「Majestic Dance」、金子隆博のテナー・サックスがジャジーに、そしてエッチに歌い上げる「Kidman」、ポルトガル語のヴォーカルがフィーチュアされるボサ・ノヴァ・チューン「o mar de areia」など、まさに“ヨーロッパの映画のような雰囲気”に満ちた楽曲が加わり、パワフルさと繊細さ、豪快さと緻密さ、ファンキーとハイ・センスなどが絶妙にバランスした、極上のサウンドトラック・アルバムになっている。金子隆博というアーティストの才能の幅広さと、感性の鋭さは、まさに驚異的だ。
“いちばんの聴きどころは、やっぱりシティボーイズのライヴを観てもらって……というところでしょうか”と金子自身は言うが、シティボーイズのライヴを観た人はもちろん、BHBのファンの人、そしてそのどちらでなくても、ちょっとおシャレで、センスが良く、生活の様々なシーンに溶け込んでくれるような音を探している人にもピッタリの、クォリティとエンターテインメント性のどちらもが高い、好アルバムだといえるだろう。
text by 熊谷美広